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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2011. 6.  RIETI  LETTER
パラダイム・チェンジ顔画像と経歴



俳優  石田 純一

 今回の東日本大震災がもたらしたのは最大規模の地震と大津波であり、そのうえ重大な原発事故までが重なってしまった。被災地では、生産や生活基盤の復旧作業が行われている。震災前の状態を回復するという意味で、復旧は重要なことであろう。だがさらに重要なのは、敗戦後の日本が希望とともに実現させた復興≠今一度行うことではないか。復興の目的は被災地の方々が、ひいては日本全体が健全な経済活動ができ、健康で安心して暮らしていかれること。そのためには思い切ったパラダイム・チェンジが必要である。

 長年、目先の利益、数字だけを追う経済論理が支配してきた日本では、企業がその内容に関わりなく1000億の売り上げを示しただけで素晴らしいと評価されてきた。だが本来、エコノミー=経済はギリシャ語のオイコノミアが語源であるといわれ、それは家や家政の意味を持ち、家族がどのように暮らすかに関わる言葉だ。そして政治=ポリティクスはギリシャ語のポリスに語源を見いだすことができ、本来それは都市であり市民による政体を指している。すなわち家庭が、市民が幸せになるためのものが経済であり政治であり、いい意味で人の心も含めて繁栄させるのが政治や経済のあり方ではないだろうか。

RIETI LETTER 表紙画像

 身近な例だが、太陽光発電の会社を経営している僕の友人が、被災地にソーラーパネル何十万個を無料で提供したいと申し出たところ、省庁の縦割り行政のもとに担当をたらいまわしにされ、前例がないとの理由でいまだに実現していない。しかし今こそ、政治家、経済人、優秀な官僚、市民のすべての人々が智恵と知識と技術を持ち寄り、原子力に頼らずに輝ける未来型のインフラ整備を行い、自然に新しい命を吹き込んで美しい景観を再生させるためにこれまでの認識や価値観を転換するべき時である。それが亡くなられた方々や被災された方々に対して、せめて僕たちが渾身の努力をもって報いる方法なのだ。

 今、花見や花火の自粛が叫ばれ、人々の意気が下がっているといわれるが、僕はそうは思わない。むしろ周囲には3月11日を境にして、より前向きに覇気を持って将来を考える人たちが増えている。今回の大震災で、生産の拠点が東北・北関東にあることが知られ、海外では機器や部品の入手が困難となって日本製品の優秀さが改めて見直された。日本人が何十年も積み上げてきたさまざまな技術、システム、発想が世界を支えているということが再発見されたのだ。ポルトガル、ギリシャは国債の金利も上がって通貨安になり悪いインフレになっている。市場経済には非情な面もあって一時、投げ売りをしかけられたが日本は危機的状況には陥らなかった。

 しかし何より救いになるのは、人間が生来もっている感じる力と魂の輝きである。唐突に思われるかもしれないが、戦時中、戦後など困難な状況下では逆に自由や愛や創造への欲求が強まり、多くの名作が生まれた。たとえば映画でいえばあの「カサブランカ」がある。今こそ、みんなが「何か」を生み出せる時なのだ。



次号は、(株)サマンサタバサジャパンリミテッド代表取締役社長 寺田和正氏にお願いします。
リレーエッセイ 「パラダイム・チェンジ」  (リーチレター 2011年6月号)  俳優  石田 純一

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