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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2015. 10.  RIETI  LETTER
「ROE(株主資本利益率)と企業経営」顔画像と経歴



  スパークス・グループ株式会社
スパークス・アセット・マネジメント株式会社
代表取締役社長 阿部 修平

 日本の企業経営が、変化し始めた。私は1989年スパークスを創業以来、経営者との面談をベースとした調査・投資活動を行ってきた。以来、多くの日本の経営者にお会いしてきたが、かねてより、企業に関わるステークホルダーの中で株主が重要視されていない、と強く感じていた。それが昨年から、政府によるスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの推進により、企業経営者に大きな意識変化が起こり始めたのだ。私は投資の世界で働き始めて30年以上になるが、日本企業の経営者が株主価値向上に眼を向けて大きく舵を切った「歴史的転換点」とも受け止められる初めての感覚だ。

 この背景には、日本の株式市場の所有構造が大きく変化してきていることもあろう。それまでの金融機関や取引先を主体とした持合い株式の構造が本来の株主としての目的を歪めてきたが、近年では外国人投資家や年金基金など、所謂リターンを求める投資家が約70%を所有するに至っている。こうした構造的変化が、経営者に株主重視経営を感覚的にも促しているのだろう。企業の存在意義は長期的な株主利益を最大化する点にあることは論を待たないはずだが、ようやく日本でもこれが当たり前に議論される時代に入ったのだと思う。

RIETI LETTER 表紙画像
 そもそも企業のステークホルダーには顧客、従業員、銀行、国、そして株主がいる。これらステークホルダーに収益分配をしていく中で、最後に残った収益を受け取る立場にいるのが株主である。つまり、最もリスクを負っているステークホルダーが株主であるということだ。だから株主に配分される利益を生み出すことが企業経営のベースであり、必然的に、ROEが重要なのだ。

 米国一の富豪、ウォーレン・バフェットの投資理論はシンプルだ。全てのステークホルダーへ報いた後に創出される利益のうち、持続的な成長に必要な資金を再投資し、成長に必要の無い資金は株主に還元することによって、ROEの持続的成長をもたらすことができる「合理的な経営者」への投資を徹底している。

 米国はバフェットのような投資家と経営者が、ROEという「最も分かりやすい経営指標」を共通のメジャーとして対話を重ねることで、強く健全な資本市場を創り上げたとも言える。日本も真の資本市場経済の一員としてその役割を拡大していくのであれば、資本の生産性向上、ROEの拡大に重点を置くべきだ。

 一方で財務レバレッジを高め、財務健全性を犠牲にすることによってもROE自体は改善することから、ROEを重視することに対する異論・反論もあるが、それはROEのごく限られた一面のみに焦点を当てている議論であり、本質的な議論ではない。重要なのは短期的ではなく、長期的なリターンを達成するために経営者と資本市場が共通の指標であるROEを通じて、規律ある企業経営のあり方を対話することである。私は今まさに、日本の資本市場と企業経営者の関係が構造的にグローバル化する新しい時代の入り口に立っていると考えている。



次号は、(株)スフィンクス・インベストメント・リサーチ代表取締役/エコノミストの藻谷俊介氏にお願いします。
リレーエッセイ 「ROE(株主資本利益率)と企業経営」  (リーチレター 2015年10月号)
スパークス・グループ株式会社 スパークス・アセット・マネジメント株式会社 代表取締役社長 阿部 修平

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