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リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2022. 5.  RIETI  LETTER
マーケットがないなら創ればいい顔画像と経歴



  木村石鹸工業株式会社  代表取締役社長  木村祥一郎

 木村石鹸では、毎年四月に「親孝行強化 月間」という恒例行事があります。 「親孝行強化月間」は、親孝行のための 軍資金一万円を社員全員に出す、というか なり変わった取り組みです。こんな取り組 みをかれこれ23年も続けてます。私の父 (三代目)、現会長が始め、そのまま私(四 代目)が引き継いだのですが、最初は正直 悩みました。

 社員に親孝行を促して何になるのか、 一万円を配布してもその使い道について チェックするわけでもありません。社員の 中には親孝行ではなく、自分のお小遣いに する人もいるでしょう。社員が今後増えて いく中で、こんな取り組みを続けていくこ とにどんな意味があるのか。かなり悩んだ んです。

 でも、続ける中で、気付いたことがあり ました。

 それは、「親孝行強化月間」は「当たり 前のことに感謝できる心を養うための取り 組み」なんだな、ということでした。 自分が今、生きて暮らしていることの前 提には、必ず「両親」がいます。そして、 多くの人の助けや、多くの先人たちの努力 や献身があったはずです。そんなことは当 たり前すぎて、普段、何も感じることはあ りません。でも、ふと、その「当たり前」 に向き合ってみた時、それが実は「当たり 前」のことではなく、もの凄く尊いことで、 感謝すべきことなんだということに気付か されます。

 この二年、コロナが猛威を振るうなか、 私達が「当たり前」だと思ってた様々なも のごとに制限がかかるようになりました。 当たり前のように会社に来て、当たり前の ようにお客さんと商談して、当たり前のよ うに飲食店で談笑して。そんな「当たり前」 が、「当たり前」でなくなった現実に直面 しました。その時、多くの人は改めて「当 たり前」の有難さに気付き、「当たり前」 がいかに大事だったかを思い知ったのでは ないでしょうか。

 「当たり前」の有難さに気付くこと。これ は簡単そうで、実はとても難しいことです。 私達は、今足りてないことや、うまく いってないこと、マイナスのところはよく 見えるわけです。でも、出来ていることや、 うまくいってることは「当たり前」として 視界に入らない、意識するのは難しいわけ です。

RIETI LETTER 表紙画像  そう、「親孝行強化月間」は、「親孝行」 という行為を通じて、そういう「当たり前」 の有難さに気付き、それを感謝できる心を 育もうという取り組みだったのです。

 年に一回でも、こういう機会を通じて、 両親や自分をサポートしてくれてきた人た ちのことを思い出し感謝してみる、それに よって私達は当たり前の有り難さに気付け るようになっていって欲しい。そんな願い が込められていたのです。

 「感謝する」ことや、感謝の「心遣い」は、 取り組めば取り組むほど、育まれ、むしろ 豊かになっていくものではないかと思いま す。また、感謝というのは、何か良いこと があったとか、感謝する出来事があったか ら感謝するのではなく、むしろ感謝する心 遣いが先にあるからこそ、良いことや、素 晴らしい出来事があるのではないかとも思 います。

 なぜなら、極端に言えば、この日本に生 まれたということにも感謝できるし、今、 普通に生活できているということにも感謝 できるわけで、私たちの身の回りには感謝 できることで満ち溢れてるからです。そん な当たり前の日常や生活に感謝できる心遣 いが、「感謝すべき出来事」を現前化させ るのではないか、と思うわけです。

 そして、社員の一人一人が、ほんの少し でも、当たり前の有り難さに感謝できるよ うになるだけで、チームワークはずっと良 くなるだろうし、人と人との関係性も良く なると思います。それは結果的には、企業 活動やビジネスに良い影響を及ぼすのだろ うと思います。

 そんなことに気付かされた私は、とりあ えずどこまで続けられるかは分からないけ ど、可能な限りこの取り組みを続け、当た り前のことに感謝できる心遣いについて語 り続けていこうと思ってます。自分も、そ んな心遣いが出来ているわけでもないの で、こういう取り組みを通じて、自分の心 も養っていければと考えています。


次号は、堀田カーペット株式会社代表取締役の堀田将矢氏にお願いいたします。

リレーエッセイ 「当たり前の有り難さに 感謝できるように」(リーチレター 2022年5月号)
木村石鹸工業株式会社  代表取締役社長  木村祥一郎

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