私は商店街にある創業100年を超え
る老舗洋品店で生まれ、日本製の洋服に
触れて育ちました。20歳の頃、留学先
のフランスでスリに遭い、必死に仕事を
探したところ、グッチ・パリ店で働く機
会を得ました。ある日、同僚から「本物
のブランドはものづくりからしか生まれ
ない。エルメス、グッチ、シャネル、ヴィ
トンは元々工房だった。だから私たちは
常にものづくりに敬意を払っている」と
聞きました。
大学でブランディングやマーケティン
グを学んでいた内容とは正反対の言葉
に、私は大きなショックを覚えました。
「それなら日本の工場から世界ブランド
を作りたい」と考え、29歳でファクト
リエを始めました。
日本のアパレル製品の国産比率はわず
か2%まで低下。日本の風土やものづく
りの魅力が薄れています。この状況に危
機感を覚え、ブランドを作ることでその
地域の風土を守りたいと思いました。
では工場をどう探すか。工場はホーム
ページを持っていないため、産地へ行っ
て電話ボックスにあるタウンページから
電話をかけ、訪問しました。残念ながら、
当初は、下請けとして仕事を行っている
工場に、自分たちがブランドになりま
しょうと提案しても全く受け入れてもら
えませんでした。ですが、少しずつ共感
してくださる工場さんが現れたことで、
「あそこがやるならうちもやるか」と増え
ていきました。
工場がここまで減少した理由は、「利益
率の低さ」にありました。そのためにイ
ンターネットを活用し、工場から直接一
般消費者に商品を提供する新しいアプ
ローチを提案しました。ファクトリエで販
売する全ての商品に品質基準を設け、「語
れるもので、日々を豊かに」というコンセ
プトを掲げ、製品の背景や製造過程を公
開。お客様に安心して良いものを長く愛
用していただけることを目指しました。
スタートして11年、訪問した工場数
は七700を超え、現在では日本各地の
50工場と協力して、メンズ・レディー
スの洋服を作っています。インターネッ
ト通販がメインではありますが、試着し
たい方向けに銀座と熊本に実店舗を構え
ています。
商品は、例えば1957年に南極観測
隊が使用した高性能ダウンや、トップメ
ゾンも愛用する上質コットンのドレスT
シャツ、皇室御用達とされてきたスーツ、
肌が弱い方向けに作った天然繊維
100%の「かゆみ対策インナー」など、
日本独自の技術を駆使し、丁寧に作って
います。
11月に渡仏し、ラグジュアリーブラ
ンドの幹部と打ち合わせをした際、日本
製の品質の高さに驚き、すぐにでもコレ
クションに採用したいとの声を複数のブ
ランドからいただきました。
私はこれからも日本の素晴らしいもの
を世界に広め、メイドインジャパンの価
値を発信し続けることが自身の使命だと
考えています。アパレルの国産比率の低
下や風土の失われる中で、ファクトリエ
はお客様と工場のみなさんの日々を豊か
にし、心の温度を高める存在となり、社
会にとって不可欠な存在となれたらと
思っています。
次号は、平和酒造株式会社代表取締役社長の山本典正氏にお願いいたします。