(一財)経済産業調査会 <<< 前の画面へ戻るお問い合わせ会員サービスメールマガジン登録経済産業情報会員刊行物
リレーエッセイご執筆者に次号のご執筆者をご紹介頂きます2024. 4  RIETI  LETTER
官庁広報のトップを走ってきた経済産業調査会の解散に当たり顔画像と経歴



経済産業調査会  会長  堤  富男

 経済産業省のDNAは、その所管が生き た日本経済であり、千変万化する世界経済 を相手にするものであり、どうしても保守 的な考え方では収まらないところがある。 言い換えれば、先取の気性に富んだとこ ろがあり、良きにつけ悪しきにつけ、時流 に乗って行くところがある。

 私の経験からしても、輸出振興をしてい たかと思うと、その十数年後には輸入振興 に精を出し、規制緩和が金科玉条であった 時代もあったが、今は経済安全保障の時代 に入り、必要な規制、産業政策が重要事項 となってきたなどは、その数多い政策の方 針変更の典型例であろう。

 実は、この政策変更が行われるというこ とは、その政策変更を国民の皆様に知って いただくためには、どうしても政策の広報 が必要である。広報課長室の隣に百人を超 える新聞記者にスペースを差し出し、単な る発表だけでなく、その背景をご説明する 懇談会などは必須事項であり、効率的な広 報の一つであった。

 もちろん日々の政策変更を公式に知らせ る輸出輸入公表、経産省公報などは重要な 広報手段である。特許関係でも特許公報は 公式な政策状況を知らせる重要な手段であ る。また白書と称する年一度の政策の背景 からその変化の方向を確実にご理解いただ く書籍も大切な広報手段である。経産省で は、法律で公表を義務づけられているもの、 例えば中小企業白書のようなものに加え、 通商白書やものづくり白書なども、法律に 規定されないにもかかわらず出しており、 その広報への力の入れようは大変なもので ある。

 今では廃刊になってしまっているが、『通 産ジャーナル』(月刊誌)は、官庁の中にあっ てもその先駆けであったことは、この流れ からも必然であったのかもしれない。

RIETI LETTER 表紙画像  これらの広報を強力にバックアップをし たのが、何を隠そうわが「経済産業調査会」 である。通産省職員であったころの私の記 憶では、新しい政策(例えば輸出振興税制) を打ち出し、いろいろ紙媒体で解説し、全 国の大都市で説明会をさせられた記憶があ るが、これは調査会がすべて設定して呉れ た場所で行われたものである。説明会の舞 台の袖まで聴衆がたくさん居てそれまでの 苦労が報われたと思う記憶もあるが、これ が調査会の栄光の記憶の一つであろう。 その後、日が代わり、時代がデジタル時 代に入ると、この栄光に影が差し始めた。 紙媒体による広報は、随時デジタル化さ れ、その売れ行きは、下降の一途という時 代になった。

 さらに公益法人改革により既存の公益目 的財産の無償事業での計画的な支出が義務 付けられ、これも経常的な経営圧迫要因と なってきた。

 その間、職員の皆様は人員の補充はまま ならない中低い賃金で一生懸命に働いて頂 いたが、会員も減少傾向に歯止めがかから ず、リモート講演会など新しい試みも焼け 石に水であった。調査会の正味財産が定款 に定める基本財産を割り込み、出版業の宿 命でもあるが、解散すると書籍の在庫は原 則評価額ゼロになることを知ると、ある程 度余裕を持って解散に入ることが社会にご 迷惑をかけず、職員福祉にも通ずると思い 解散の決議への運びと相成った。

 その75年の栄光の歴史を考えると、 万感の思いもあることは確かであるが、時 代の流れと公益法人改革の影響を考えると、 静かに消え入るのが残念ながら苦渋の選択 であろうか。

 なお、その中でも長年支援していただい た人々にはその業務でなお他の団体で行う ことになっているものなどを紹介するなど 飛ぶ鳥跡を濁さずの思いでしっかりフィ ニッシュを決めたいと思う。

 最後に多くの関係者のご多幸とこれまで の当調査会への支援に対し深甚なる感謝を 申し上げ、ここで身を引き締めて筆を置き たい。

リレーエッセイ 「官庁広報のトップを走ってきた経済産業調査会の解散に当たり」(リーチレター 2024年4月号)  堤  富男

 info@chosakai.or.jp
 http://www.chosakai.or.jp/

無断転載を禁じます 一般財団法人経済産業調査会

Copyright 1998-2023 Reserch Institute of Economy, Trade and Industry.
<<< 前の画面へ戻るお問い合わせ会員サービスメールマガジン登録経済産業情報会員刊行物(一財)経済産業調査会ポータル